Hand Work
手仕事について
Hand Work
手仕事について
当店では基本的に一日一部屋、最大二部屋までの施工とさせていただいております。
それは畳の張替えの際に、長年使って生じた畳の隙間や、モノを置いてできた畳の段差を手作業で、地元(鹿児島、屋久島産)の稲わらを使って、丁寧に修復してお届けしたいからです。
畳は毎日、私たちの暮らしを支えている為、良く歩く箇所ほど凹んだり、縮んだりしてしまいます。
畳が縮んでしまったり、凹んでしまったりすることを、畳の弱点と思われる方もいらっしゃいます。しかしながら、畳の凹みは、その分だけ人の足にかかる負担を吸収してきた証拠です。逆に凹んだり痛んだりしないフローリング等の素材は、その固さの分だけ人の体に日常的に負担を強いているということになります。
その畳の凹みや縮みを手作業で丁寧に修復することで、すきま風もなく、平らで、歩きやすい快適なお部屋になります。しかし、何でも手作業がいいわけではありません。畳の内部の縫い留め作業に関しては、昔ながらの手作業で行うことが一番丈夫で、使う人にとっても安全ですが、機械の針の上下運動は畳ヘリや畳表を確実に縫い留めることに適しています。つまり、「直線縫いは機械に任せ、細部の修復は手仕事で」というのが、最短で確実に仕事を進める当店のスタイルです。
現在全国的に行われている、時間短縮のための金属のステープル針やガムテープで修正する施工法では、修復部分が時間とともに針が錆びて、すぐにもろくなってしまう上に、お客様の足に錆びた鉄が刺さる危険性があります。
しっかりと畳糸で縫われた畳は、内部に糸だけが残るので安全で、緩まず、半永久的にお客様の暮らしを支えることができます。さらに次回の張替えの時間を短縮できるため、一度の張替え当たり数時間の手間ではありますが、長い目で見てもみると、お客様へ畳をお届する時間を一番短縮できる方法でもあります。
手間をかけてつくるから、
うれしい時間がつくられる。
畳は農業
現代の畳は最終工程に機械作業がみられるため、すべて同じ大きさ、形の既製の工業製品のように思われるかもしれませんが、畳の製造前の工程も実はほとんどが人の手によって支えられています。
当店で作られる一般住宅用の畳は主に三つの産地から来た素材を使用しています。表面の「いぐさ」は熊本産、内部の「畳床」は鹿児島産、補修用の「稲わら」は屋久島産です。
畳の表面の素材である「いぐさ」は、畳になるまでに約二年の歳月がかかっていることはあまり知られていません。この時間は、いぐさ生産をする農家の方が、苗を仮の田んぼに育てて、田に植え替えて、育て上げて収穫、その後、泥染め、熟成の工程を経て、やっと畳表(ござ)に織りあげられて出荷されるまでの時間です。
国産天然タタミ表の97パーセントを担っている、熊本県のいぐさ生産農家は、平成元年に約5500件ありましたそれが、2020年現在、400件未満です。この数字からもいぐさ農家の方々の苦労は大きいことが感じられます。
伝統的な畳の内側に使われている畳床の素材もまた、私たちが食べるお米になる稲わらです。日本人の主食であるにもかかわらず、現在では畳床を作る為に適した長さの稲わらは希少な素材になっています。当店では地元屋久島の農家さんのご厚意で、畳の修復用に無農薬栽培の稲わらを使用しています。
幸いなことに屋久島で育つ無農薬の稲わらは背丈が短いにも関わらず、芯が固く、へたりにくいので、丈夫な畳修復に向いています。これはまるで、ゆっくりと小さく、丈夫に育つ屋久島の杉の木の特徴に似ています。この短い稲わらを使って修復する作業は、通常のものより時間はかかりますが、間違いなく長持ちする畳になります。
これまでの畳屋の仕事は、これらの素材を「測って、切って、縫う」という、工業的過程に限定されてきましたが、当店はできる限り、いぐさを育てて、製織作業までを手掛ける生産者と近づいて素材を知り、その魅力を最大限に引き出すことを大事にしています。 「○○産の、■■というブランドのトマトは甘くておいしい、しかも△△さんの育てたのは格別です」というのと同じように、いぐさの質にも織り方にも生産者の個性があり、それこそが畳の美しさや耐久性に直結するからです。
畳は毎日触れるもの。だからこそ、美しく長持ちする畳を選ぶには、魚屋さんや、八百屋さんで食品を買うように、定価よりも時価である方がお得です。そして体にやさしい食べ物を選ぶように、あるいは、お気に入りの衣類を選んでいただくように、畳の素材を見て、触っていただく時間を重視しています。
例えば年間を通して、白菜やサンマが500円で売っているとすれば、高いと思われるはずです。当店のホームページには国産畳の張替えに関しての参考価格のみで一般的な価格表がない理由はここにあります。ですから当店ではまず、特にお勧めする素材につきましては、生産者を訪れて、できる限り顔の見える、そして確かな素材を提供してくれる生産者の素材を仕入れて在庫にしております。